ゴットハンドA

風のように生きる理髪師の物語 - 第1章：家族の風景

昭和40年代、どこにでもあるような小さな町の一軒家。父は体が弱く、家で弟と私の世話をしていたと聞いている。母は昼間は工場で働き、夜には内職に精を出していたという。忙しい日々だったが、それでも家族の会話は絶えず、笑顔の絶えない家庭だったと大人になってから両親が話してくれた。

弟は2歳年下だ。両親からは、彼が生まれた時、どれほど健康で丈夫だったかをよく聞かされた。しかしその後、彼の人生を変える出来事が起きた。原因については、今でもはっきりとは分からない。両親は「頭に血の塊ができた」としか話さなかったし、そのせいで緊急手術が必要だったという。ただ、あの当時の記憶があまりに曖昧なせいか、時々こんなことを考えてしまうのだ。

もしかすると、あれは私のせいだったのではないか。
嫉妬から、何か乱暴なことをしてしまったのではないか。弟が生まれるまで、私は両親の愛情を独り占めしていた。その特権を奪われる不安から、知らず知らずのうちに何かしたのではないか——そんな疑念が心の片隅に浮かぶことがある。しかし、事実は分からない。私には、その頃の記憶が全くないのだ。

ただ一つ言えるのは、どんな過去があったとしても、今の私は弟を心から愛しているということだ。彼が笑うと、私も笑う。彼が困れば、私も胸が痛む。それだけは変わらない。